作者:伊坂幸太郎
レーベル:新潮社文庫
ラッシュライフ――「豊潤な人生」
あらすじ
若い女性画家。泥棒を生業とする男。父親を自殺で失い神に憧れる青年。不倫相手との再婚を企むカウンセラー。職を失い途方に暮れる男。いくつものストーリーが絡み合い、物語は意外な展開を迎えてゆく。
はい、伊坂幸太郎さん作の小説『ラッシュライフ』の感想です。映画化もされていますが、今回は小説の感想。
若い女性画家・志奈子と凄腕の画商・戸田
泥棒を生業とする黒澤とその同級生・佐々岡
新興宗教の教祖・高橋に惹かれる河原崎と塚本
精神科医の京子とサッカー選手の青山
無職の豊田と野良犬。
一見無関係のこの5組の話が並行して、時に交わりながら進んでいく。まるでだまし絵のような作品ですね。
ミステリなのにどこか軽く、ミステリっぽくない。しかし、ミステリとしてはキチンと成立している。伊坂幸太郎さんは、そんな独特な作風ですね。
あまり小説を読まないのですが、時系列のトリックは脱帽。どうやらカットバックという手法のようですね。
最後のネタばらしで、全然別の話が一つに繋がる感覚は、なんと表現していいのか…… ただただ、脱帽。
普段帽子被らないのに二回も脱帽してしまいました(笑)
個人的には、豊田のパートが好きですね。くたびれた無職の中年が、野良犬と出会い、共に歩く。その奇妙な珍道中が小気味いい。あとは後の伊坂作品でも結構登場する黒澤。意外なところでの同窓会は本当に読んでいて「なんか良いなぁこの二人の関係」と思いました。この作品はネタバレしちゃいけない作品なので、極力ネタバレしないように感想書いたけど大丈夫かな……?
以降印象に残ってるセリフ。
「不景気、不景気とさわいでいるがな、これだけ長い間不景気なんだ、それがこの国の標準の状態なんだろう。子供がテストで一度満点を取ったからと言って、その後五十点程度しか取っていなければ、その子の実力は五十点だろ。違うか?この経済状態だってずっと続いていればそれが普通なんだ。昔のまぐれ当たりを待ち続けている馬鹿ばかりの国に先はない。だいたい、失業率にしたところで、全人口分の仕事がこの世の中に用意されていると誰が決めたんだ?少なくとも私は決めた覚えはないぞ。誰もが仕事にありつけると無根拠に思い込んでいるだけだろ?人口が多くて、全員分の仕事はない。簡単なことだ」
「神を解体するんだ」
「千載一遇」「渡りに船」「棚からぼたもち」「間一髪」「グッドタイミング」「物怪の幸い」「運のいい奴」
「日本人は都合のいい時だけ神をで
っち上げて、祈るそうですよ」
「蚊なんて、人がいつも無造作に両手で潰しているだろうが。神様は意外にそんなもんなんだ。近くにいる。人はそのありがたみにも気がつかず、平気でぱちんぱちん、叩いて殺しちまっている。神をな、それでも奴らは怒りはしない。神様だからだよ。潰される瞬間、「またか」なんで、笑ってしまうくらいだろうよ。俺たちが日常的に殺しちまっているもの、そういうものに限って神様だったりするんだ」
「世の中にはルートばかりが溢れている、とね。そう言ったよ。人生という道には、標識と地図ばかりがあるのだ、と。道をはずれるための道まである。森に入っても標識は立っている。自分を見詰め直すために旅に出るのであれば、そのための本だってある。浮浪者になるためのルートだって用意されている」
「たぶん絵というのは、紙に殴りつけた祈りだよ」
「でもな、人生についてはアマチュアなんだよ。そうだろ?」
「誰だって初参加なんだ。人生にプロフェッショナルがいるわけがない。まあ、時には自分が人生のプロであるかのような知った顔をした奴もいるがね、とにかく実際には全員がアマチュアで、新人だ」
「おまえたちこそ、人生の覚悟は出来てるのか?」